ホームページ上でジュエリー制作FAQなるものを実施しているが、利用者はほぼ皆無だ。理由は色々有るだろうが、書かれた情報は利用するが自分が前面に出るのは嫌だ、という最近の傾向だろうか。
もちろん時々は真面目な質問とは思えない質問も、架空アドレスで舞い込む。その中の一つに「ジュエリー制作とは何をする仕事なのですか」というのが有った。こういう極端に漠然とした質問は、するのは簡単だが答えるのは難しい。簡単に答えるならジュエリー制作とはジュエリーを制作することなのだが、さて、ジュエリーを制作するということの他の職業とは違う特異性は何なのだろうか。
ジュエリーを作るというからには、出来上がるものはジュエリーであることは言うまでも無い。つまりはこの出来上がり形態・・完成予想図・デザイン画というものが有る。そして、それを作るのに必要な材料・・地金や宝石が有る。デザイン画が先で材料が後でも、材料が有ってデザインを考えるのでも、どちらの場合も有るだろう。順番は問題ではないが、材料と完成形態というのは必要だ。これが無いと行き当たりばったりの偶然に頼った造形になってしまう。偶然良い形が出来たとしても、職人としては威張れたものではない。
実際にジュエリーを作る場面を思い浮かべてみよう。ここに有るのは材料だ。完成形態はもちろんまだ紙上の絵か頭の中にしかない。材料と完成形態を結ぶ道を作ること。これが職人の仕事に他ならない。例えば地金の塊とカットされた宝石のルース(裸石)が有る。これを何らかの方法で美しい指輪にしなければならない。方法は無数に有るだろう。どんな方法を使っても良い。制限はないしマニュアルも存在しない。極めて言えば、まだ世の中に生み出されていない方法で作っても良いのである。その辺が特異であるといえるだろうか。ただし職人が職業としてやるのであれば、必ず守らなければならないことが有る。それは「より速く、より美しく」作らなければいけないということだ。それができないと職業として成り立たない。私がまだ見習い職人だった頃は、この一見矛盾に思える命題に悩んだものだ。速くやろうとすれば雑になる、きれいにやろうとすれば時間が掛かる。出来るわけないだろうと思ってサジを投げかけたことも、実は何度か有った。
それでは「より速く、より美しく」を実現するには、どうすれば良いのだろうか?それは作業手順や方法を「より簡単に」することで解決出来る。材料を完成形態まで持って行くのに、最も簡単な方法を見付けることだ。世間では職人というと「職人芸」という言葉に代表されるように、普通の人には出来ない難しいことを出来る人と解釈されがちだが、実はそうではない。職人に職人芸などは必要ない。作るところを人に見せて商売しているわけではないのだ。
簡単な方法を見付けるということは、考えられるあらゆる方法を比較検討して、最も簡単と思える方法を選んで工程を組み立て、なおかつ工程全体の流れもより簡単なものになるように工夫するということだ。これさえ出来るようになれば、誰でも上手い職人になれる。簡単だから速く出来る。簡単だからきれいに出来るのだ。上手く出来ない、速く出来ないという人達は、大概がとても難しいことを苦労してやっている。難しいから上手く出来ないし、時間が掛かってしまうのだ。
私は元来がとても無精であるから、なんでも簡単にやりたがる。手間が掛かること、面倒なことは「あぁ嫌だ・・・もっと簡単に出来ないかな」と、いつも考える。並の無精ではないから「嫌だ」と思いながらもコツコツと作業を続けるということは出来ないのだ。相当のエネルギーを注いで「もっと簡単な方法」を見つけ出そうとする。うまく簡単な方法を考え出すことが出来れば、他の人の半分の時間で作業を終えたりも出来る。職人を目指す人や修業中の人は、一考の価値が有るだろう。