
ジュエリー職人としての修業中、先輩職人達から良く言われた言葉がある。
「勘(かん)」・・・なんとも曖昧な言葉なのだが、万事これで片付けられてしまうようなところが有った。「この位置はどうして決まるんですか?」「勘だよ。」、「このカーブは?」「勘だよ、勘。」、「何ミリくらいの角線から持っていけばいいですか?」「勘で決めるんだよ」・・・という具合である。
現在でこそ、この「勘」というものがどういうものであったか理解できるようになったが、修業当時は全く分かるものではない。教える職人の方にも、実際に説明できるような根拠は無いのだ。熟達しているから、見れば「ここ!」「これくらい!」が分かる。たとえばアールの付いた板材を見れば、それを巻いたときにどの程度絞れた枠が出来るかが見える。まさに「勘」だ。
しかし、現在の若い人達には、ほとんどこの「勘」が通用しない。マニュアル社会とでも言うのだろうか。手順を記憶しようとしかしない人が多く、勘が育ちにくい。そういう人達にジュエリー制作というものを教えるためには、勘だけではなく「根拠」が必要になる。私が作業の中の「勘」の部分を、出来るだけ計算式にしてしまおうとするのも勘の根拠を得たいがためなのだ。
上図のラウンドメレーの3本爪・4本爪の爪間隔(爪と爪の外側の距離)を求める計算式も、その一つだ。これはジュエリー制作ノートにも掲載している。爪留めの石枠を手作りする場合、難しいのはやはり爪の位置だ。これが少しでもずれていると、みっともないことになる。大きめの石枠ならば慎重に爪位置を決めていくのが良いが、小さい石枠をたくさん作らなければならないときには、そうもしていられない。
石枠の外径と爪に使う丸線の直径から、この計算式で求められるのは2本の爪同士の外側の距離だ。それを実際の制作で使用する方法は、2本の爪を一緒に付けてしまうというところにポイントが有る。丸線をU字に曲げて2本同時にロウ付けすると言えば、制作をされる方なら納得できるだろう。このU字の外側の巾(爪同士の外側の距離)が分かれば、同じ間隔に開いたU字が簡単に作れる。これを作っておいてから一気にロウ付けしてやれば、作業時間が大幅に短縮できる。最近ではメレー枠などはキャスト枠を使うことが多いが、必要が有るときには大いに重宝する。
=同日追記=
この記事を書いた当日の仕事中、思わず「勘だよ」と言いそうになった。楕円形の丸カンを作る必要が有って、作り方を説明していたときだ。真円に巻いてからつぶして楕円にするのだが、この真円の直径をどう出すのだろうか。実は勘で教えてしまったが、気になったので手が空いた時間に計算してみた。意外にシンプルな計算式になった。役に立ちそうなので、これも掲載しておこう。