久し振りにエメラルドのカット石を扱ったが(無事です。ご安心下さい)、このエメラルドという宝石はジュエリー制作において非常に厄介なものなのだ。硬度は8だから表面が傷つきやすいわけではない。しかし無傷のエメラルドは存在しないと言われるほど、必ずと言って良いほど、他の宝石だったら致命的とも思われるような亀裂を内包している。
亀裂を内包しているのも宝石の特色であろうから、それも仕方がないと思う。最も厄介なのが、この亀裂に施された含浸処理(がんしんしょり)と呼ばれる人工的な処理である。含浸処理とはその名の通り、亀裂にオイルや樹脂などを圧力をかけて浸透させる処理法で、亀裂を目立たなくさせて発色を良くする効果が有る。
浸透させるオイルや樹脂の類いも実は種類は様々で、超音波洗浄で簡単に抜けてしまうものも有れば全く影響しないものもある。しかしロジウムメッキの前処理として行われる電解脱脂では、ほとんどの含浸物質は抜け落ちてしまう。電解脱脂は通電することによって電気分解の要領で付着している脂分を除去する。エメラルドは主成分がベリリウムだから電導性があるのだ。
石留めの際に松脂などで固定することがあるが、この松脂を取り除くために有機溶剤に浸けるのが一般的だ。エメラルドの場合は、この作業にも注意が必要になる。有機溶剤は脂分を溶かし去るので、含浸されているオイルや樹脂が溶け出してしまうことが考えられるからだ。
溶け出してしまうだけならまだ修復の見込みは有るのだが、最近の含浸処理では少々面倒なことが起こる。何を使っているのか・・企業秘密だろうから明らかにはされていないが、確かに見た目は非常に綺麗な発色が得られる処理だ。しかしこの処理がされたエメラルドを有機溶剤に浸けると、亀裂が広がって最悪の場合真っ二つに割れる。有機溶剤の浸透によって膨張する物質で含浸が行われているということだ。
含浸処理の技術は向上しているようでも、今も昔もエメラルドが加工上厄介な宝石であることには変わりが無い。扱うときには充分な注意が必要だ。