最近は量産物が少なくなったのでシルバー原型を作る頻度も減ってしまった。たまに地金から削り出しのリング原型を制作したりすると、腕の筋肉が疲労して可笑しくなる。シルバー原型を頻繁に制作していた頃は、腕の疲れなど感じたことはなかったのだ。
ワックスが主流の昨今では、ジュエリーの原型というとワックスで作るものだと考えている人が多い。本来ジュエリーの原型はシルバー(稀に真鍮や銅などを使う人もいるが)の地金から手作りで作り出されるものだ。手作りだから余分な目方が付かず、すっきりとした仕上がりになる。ただし鋳造を経ることから、パーツ同士の接点はしっかりしたものでなければならない。手作り一点物の場合は接点も少量のロウで良いので、手作り物よりはシルバー原形から作られたものの方がやや繊細さに欠けるとも言える。
しばらくぶりにシルバー原型などを作ると、やはりシルバーは難しいなと感じる。金やプラチナとは質が全く違う。別物の感覚で作業に臨まないと思わぬ失敗をすることもある。シルバーを中心に製品作りをしている人は大したものだ。
以前はシルバー原型を作るとき、原型用に調整したパラジウム割のシルバーを使っていた。パラジウムで割ったシルバーは融点も高く酸化もしにくいので、ほとんどプラチナと同じ感覚で原型制作が出来る。一時期パラジウムが高騰してプラチナの価格を上回ったことがある。そのときに原型制作に使うシルバーも、現在の925シルバーに決めた。
925シルバーでの原型制作も最初は苦難の連続だったが、何ごとも慣れるものだ。その内に思い通りに扱えるようになった。しかし金・プラチナより格段に難しいことは変わらない。作業中に「お前は・・」などと地金を擬人化して叱りつけることもしばしば。素直にロウが流れると「それでいいんだ」と褒める。他の地金よりも対話が生まれやすいという意味では、愛すべき地金なのかも知れない。